こんにちは、まぐすです。
国際税務の分野にも強い税理士として、会計税務・M&Aコンサルタントをしています。
会計・税務を中心に情報発信している僕ですが、先日以下の質問をいただきました。
はじめまして。いきなりのDM、大変申し訳ありません。
実は数週間前からまぐすさんをフォローさせていただいていまして、いつも投稿を楽しみに拝見しております。
今回はお伺いしたい事がありまして、DMを送らせていただきました。
実は近々ある税理士法人に転職をする事が決まりまして、国際税務(移転価格がメイン)を扱う部門に配属が決まりました。
そこで入社前に移転価格に関する書籍を読みたいと考えているのですが、何かおすすめの書籍等ありましたらご教示いただけないでしょうか。
お忙しい中、お手数ですが、よろしくお願い致します。
僕は、移転価格に関して主に次のような実績があります。
・ 総合商社での文書化や独立企業間価格の算定
・ 金融機関での文書化や独立企業間価格の算定
・ 事前確認制度(APA)や相互協議のアドバイザー
・ 税務調査のうち移転価格調査対応(←レアだと思いますよ)
というわけで、税理士法人や会計事務所、グローバル企業の税務担当者として、これから移転価格を勉強・担当する人向けに、僕がおすすめする書籍を目的別に紹介していきます。
今回は少し専門的な記事になってしまいますが、質問してくださった方や税理士業界全体の発展に少しでも貢献できたらと思うので、お付き合いくださいね。
どの書籍も、僕が前に働いていたBig 4税理士法人などでバリバリ働いている人にとってのバイブルのような本たちですので、買って間違いはないと思いますよ。
📓もくじ
具体的な書籍を紹介する前に【注意点】
移転価格税制は、日本の法人税及びそれに関連する制度の中では、特に専門性の高い分野です。
そのため、いくつかの特徴を持っています。
具体的なおすすめの書籍を紹介する前に、それらの特徴を簡単に紹介しますね。
注意点①:変化の激しい税制度である
移転価格税制は、1986年の制度導入以降、多くの制改定が行われてきました。
2000年代からは税務調査も盛んになり、2004年や2011年にはこれまでになかった考えや基準の導入(取引単位営業利益法やベストメソッドルールなど)がありました。
さらに、2015年のOECD(※)のBEPS最終報告書を受け2016年からは、文書化およびその提出が義務付けられることとなりました。
それに伴い、国税庁からは2016年・2017年に、文書化に関する例示集や、移転価格ガイドブックが公表されるなど、いまだ変革の多い制度であるといえます。
(※)Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構
注意点②:【悲報】1番最新は国税庁のガイドライン等
上記で説明した通り、移転価格税制は未だに変化の大きい制度です。
そのため、一番の最新情報は国税庁から出されるガイドライン等になります。
なぜなら、移転価格税制は日本で法制化された制度ではあるものの、国家間の取引に関する制度。相手国の税制との関係もあることから、OECDを中心に世界でルールの統一化が進められています。
したがって、各国との意見交換や新たな制度の導入を担当している国税庁(または財務省)の情報が、世に出ているどんな書籍よりも最新情報となります。
これから紹介する書籍に関しても、もしかしたら数年後には情報が古くなっているかもしれません。
その時は、税制改正に合わせて別の本や国税庁のガイドライン等を検討することがおすすめです。
注意点③:専門書の選び方にはコツがある
専門書は、通常の小説や漫画とは目的が異なるため、その使い方や選ぶべきポイントを大きく変わります。
どういったことをポイントとして選んでいるかについては、以下の記事にまとめていますので、先にこちらも確認してみてくださいね。
それでは、僕がおすすめする書籍を紹介していきます。
1.書籍紹介|手元に置いておきたい手引き【網羅的かつ簡潔】
これらの本は、まず最初に手に取って読んでみるべき本たちです。
網羅的、かつ、簡潔に書いてあるので、移転価格税制の全体像を把握するのに役立ちますよ。
とはいえ、詳しい解説や根拠条文などもきちんと書いてあるので、「詳しく知りたい!」という人にとっても間違いないと思いますよ。
専門書の選び方に関する以下の記事に、最も近い本たちです。
おすすめ①:移転価格税制詳解 – 理論と実践ケース・スタディ
こちらの本は、手引きとして常に手元に置いておきたい1番おすすめの本です。
著者は、そのほとんどが移転価格業界では有名な方々です。
理論編として、移転価格税制の趣旨や経緯から、相互協議や対応的調整等の実務面まで、詳しく説明されています。
さらに、ケース・スタディー編として、事例形式で具体的な取引に移転価格税制を落とし込んだ場合の考え方や、その解説が載っているので、長年にわたって重宝できる本です。
おすすめ②:図説 移転価格税制Visual TP
こちらも、基本的なことから実務的な事まで、網羅的かつ簡潔に解説されている本です。
一つ一つの解説に事例が載っているため、移転価格税制の基本的な考え方を学ぶにはおすすめの1冊。
少し前から移転価格税制に携わっている人は、誰しもが知っている本ではないでしょうか。
さらに、しっかりと根拠条文等が掲載されているため、以下のような使い方がおすすめ。
✓本書のおすすめの使い方
① まずはこの本の中から知りたい情報を探す
② そこに掲載されている根拠条文などに立ち返る
という方法
ただし、1つ難点があります。
ただし、この本は出版が少し古いです。
出版された2012年9月以降にも、大きな制度改定がありましたので、こちらは網羅的に掲載されている手引きとして使いながらも、2012年以降の税制改正の分野に関しては、他の本を活用する必要があります。
そのため、この本をベースとしながらも、個別露天については別の本やガイドライン等で補足することがおすすめです。
2.書籍紹介|より実務的な内容の本【専門的かつ詳解】
常に手元に置いておきたい手引きは紹介しましたが、実務ではもっと判断が難しい局面に遭遇するもの。
そんなときのために、ぜひ持っておきたい本を紹介します。
こちらの本たちは、過去の重要な判例や具体的な用語の意味などが記載されています。
実務の現場で判断が難しい局面に出くわしたら、これらの本を活用してみてください。
おすすめ③:シリーズ移転価格税制 独立企業間価格算定の実例とポイント
こちらは、かなり最近に出版された本です。
制度の概要や用語の定義などの解説なども載っていますが、そのほとんどが『移転価格課税にかかる訴訟事例の検討』について紹介・解説されていて、ここが一番重要です。
ここまで詳細に訴訟事例を紹介・解説している書籍は、かなり珍しいですよ。
実務に関わる人なら、税務における判例の重要性は分かってくれると思います。
比較的最近に新聞報道などもされた、エクアドルバナナ事件や本田技研事件、アドビシステムズ事件などについても詳しく解説されているので、移転価格税制の考え方の根源などを学ぶことができます。
最初からすべて覚えるというよりも、『どういったところがポイントか』『どういった考え方に基づいて課税されるのか』をざっくり把握しておくだけでも、とても役立ちますよ。
おすすめ④:実務ガイダンス 移転価格税制(第5版)
こちらも比較的最近に出版された本ですね。
この本の特徴は、移転価格税制の基本的な概念から具体的な価格設定手法などの実務的な項目に加え、移転価格の税務調査で対応が難しい無形資産に関する取引についても、詳細に説明されていることです。
(なお、後半部分にはアメリカや中国など、他国の移転価格税制に関しても解説されていますが、最初のうちはこれらは読まなくてOKだと思いますよ。)
3.書籍紹介|項目別におすすめな本【移転価格の文書化】
移転価格税制を知る上では、上記の本だけで十分ですが、念のため近年の移転価格で重要な『文書化』に関連するおすすめの本を紹介します。
とはいえ、国税庁からもこちらのような例示集なども出ていますので、その補足資料として活用することをおススメしますよ。
おすすめ⑤:BEPS移転価格文書の最終チェックQ&A100
こちらは、税理士法人だけでなく文書化対応が必要な一般企業でも、持っているところが多いのではないかと思います。(実際に、クライアントと話す際にこちらの本を良く見かけます)
文書化を行う上でのポイントが一つにまとまっているので、使いやすいと思いますよ。
おすすめ⑥:移転価格ローカルファイル作成実務と実践上の留意点
こちらも比較的新しい、文書化のうちローカルファイルに関する書籍です。
税理士法人やグローバル企業の税務担当者においては、まずはローカルファイルの作成業務に携わることになろうかと思いますので、手元にもっておく1冊としては、こちらを買って損はないと思います。
他の書籍と比べて値段が少しだけ安いところもおすすめする理由です。
4.書籍紹介|個人的に気に入っている本【参考でOKです】
上記で説明した本だけでもOKですが、個人的にはこちらの本もおすすめです。
おすすめする理由は、「なかなか本で言いにくいことについても言及しているから」です。
基礎について解説している本というよりも、より実務的に論点になりやすいことについて解説している本です。
かなり薄く、かつ、専門書としてはとても安いので、おススメですよ。
5. 並行して英語の勉強もしておこう
税理士法人でも事業会社の経理の人でも、「これから初めて移転価格やるんです!」という人は、改めて英語を勉強するいい機会かもしれません。
移転価格に携わる人は、必ず英語を使うことになります。
例えば、以下のようなケースで英語が必要になります。
✓移転価格に関する業務で英語な必要なシーン
・独立企業間価格の算定のための必要情報を海外から集める
・移転価格税制文書(例:マスターファイル)を英語で作成する
・相手国の税務当局との相互協議のために英語で資料を作成する
このように、業務で英語を利用するシーンは多くあります。
せっかく移転価格に携わることになったら、併せて英語の勉強も始めてみることがおすすめ。
仕事で英語を使うようになれば、「今まで英語の勉強が続かなかった、、、」という人でもきっと続けることができますよ。
社会人1年目のときにTOEIC 400点代だった僕が、現在では海外で働くほどの英語力を身に付けることができました。
こちらのツイートで出したように、おすすめの教材をとことんやり抜くことで、現在の英語力が身につきました。
本棚を整理してたら昔のパートナー発見。綺麗に撮ってあげたけど、本当は中も外もボロボロ。
初めはTOEICを馬鹿にしたけど、900点を超えて周りの見る目も市場価値も大きく変わった。今では主に海外で働く日々。
市場価値を上げたいなら、環境を変えたいならTOEICはおススメです。 https://t.co/64DHtVu8Yp pic.twitter.com/ksYvNdzhjY— まぐす|税理士&元コンサル×商社×金融 (@Mags_career) November 12, 2019
僕が試した英語の勉強法については、こちらの記事にまとめていますので、ぜひ見てみてくださいね。
また、社会人の人で「これから英語勉強します!」という人には、まずは「TOEICの勉強」がおすすめです。
おすすめする理由を、こちらの記事で詳しく紹介しています。
さらに、ある程度英語の基礎が分かっている人なら、次は「英語を話す」ということに興味があると思います。
移転価格をやっていると、相手国の、例えば海外子会社の担当者などとのやり取りがあるので、英会話が必要となるシーンもあると思います。
最短で英語を話せるようになる方法については、こちらの記事にまとめていますので、ぜひトライしてみてくださいね。
さいごに
繰り返しですが、移転価格税制は未だ変化が激しい制度で、今後も新たな制改定が行われることが想定されます。
そうした場合には、しっかりと新たな制度に対応した書籍を買い直すか、今もっている書籍が新たな制度に対応するまで待つようにしましょう。
ちなみに、どのような本を買ったらいいかや、どのように勉強すべきかについては、以下の記事にまとめていますので、こちらも併せて確認してみてくださいね。
今回は以上です。